予 告 状
 小雪の舞う中、閑散とした街中を走り抜ける一台の車があった。
 ハンドルを握るのは、紋付き羽織袴姿の壮年の男性──否、変装したルパンだ。
 助手席には、真紅の晴れ着に身を包んだ不二子の姿がある。無論彼女も変装済みだ。
「それにしても……」
 と、ルパンはデレデレと鼻の下を伸ばした。
「さすが不〜二子ちゃん。よぉくお似合いでないの♪ ……って、イデデデデ」
「んもう、ちゃんと前見てちょうだい」
 容赦なくルパンの太股をつねり上げてから、不二子は袂から一枚の紙を取り出した。 そこには今回の『仕事』に関しての情報が仔細に書き込まれている。
「不二子ちゃんてばイジワルなんだから〜。……で、どうだった?」
「予想通りってところね」
 紙を広げながら、不二子はツと笑みを浮かべた。
「警備体制は甘いものよ。 セキュリティ装置は最新のものを使っているみたいだけど、それを監視する人間がそれほど多くないみたいだもの」
「科学を過信しすぎるとロクなことがねぇのになぁ」
 さも同情しているかのような口振りで、ルパンは大げさに溜め息を付く。
「オレたちみたいな泥棒さんを招き寄せてしまったり、な」
「ふふふ。確かにそうね」


 車はいつの間にか国道に差し掛かっていた。 日常的に渋滞が起こるこの道も、今日は時折エンジン音が聞こえる他は静かなものだ。
「次元たちはどうなの。ちゃんと準備してるのかしら」
「と、思うけどな」
「なによ、頼りないわねぇ」
 不二子が眉をひそめる。
「よ〜く説明したんでしょうね?」
「そりゃもう、他ならぬ不二子ちゃんの頼みだからサ♪  でもアイツら、何で正月早々仕事しなくちゃならねーんだって文句ばっかり言いやがってよ。 ……説得するの大変だったんだぜぇ〜?」
「あら、そう」
 慰めて貰おうと思ったところを軽く流されてガックリしながら、ルパンはハンドルを大きく切って車を脇道に向かわせた。 そのまま裏通りをジグザグと進むと、やがて建物の間から緩やかな丘が徐々に姿を現してきた。
「あそこか」
「あそこね」
 今回のターゲットである美術館が立っている丘だ。
 その美術館が近付くにつれ、静寂に包まれていた街がまるで嘘であったかのように、人の姿が目立ってきた。 自分たちのように車で通り過ぎる者もいれば、家族や恋人と共に徒歩で頂上を目指す者もいる。
「ひゃあ。大層な賑わいじゃねーか」
「なにしろ国際的な催しだもの。初日から来てみたいって思う人も多いんじゃないかしら」
「それにしたって……今日は元旦だぜ?」
 まるで珍しい物でも見るかのように辺りを見回してから、ルパンは美術館の職員の指示にしたがって駐車場に車を止めた。


 この美術館は入場無料である。それも、人々の足を向かわせる一因となっているようだ。
 二人は人々の間を縫って館内を足早に一周すると、休憩室の端の方に身を寄せた。
「どうだった?」
「どうって……こりゃあ、とんでもねぇ数だぞ」
 ルパンは目を白黒させて言った。
「絵画系が一番多いみてぇだけど、書籍や詩歌集なんかも結構ありそうだし。 これを全部一気に頂戴するとなると、余程綿密な計画を立てとかねぇとなぁ……」
 それくらい何よ、と不二子が不敵な笑みを浮かべる。
「作品数が多いってことは前々から分かってたことじゃない。 第一、その綿密な計画を立てるために、今日偵察に来たんだから」
「ま、そりゃそうだけどよ」
 ルパンは苦笑してソファーに座り直した。計画を練るのは結局いつも自分なのだ。
「問題は、いつ決行するかってことね」
 若いカップルが側を通り過ぎるのを待ってから、不二子は小声で言った。
「今回の展示会は、開催中は随時新作が運び込まれてくることになっているわ。 あまり早くに忍び込んでも、後で悔やむかもしれないわよ」
「今回の目玉作品ってのはどれだい?」
「そうねぇ、どれも一級品とは聞いているけど……やっぱり、主催者側の作品が一番目を引くんじゃないかしら」
「主催者? なんだい、ここの職員も作品提出してるってぇことか?」
「何聞いてたのよ、それは昨日アタシが言ったでしょう。 今回のこの催しはね、絵画とか創作小説とか、芸術の一端を担っている著名人たちが集まって開いているものなのよ。 当然、その中心となっている人たちも芸術家の内の一人ってこと。分かった?」
「あぁ、よぉく分かったさ」
 何か作戦の糸口を見付けたのだろう、ルパンはニヤリと笑った。と、そこで、彼は見るはずのないものを見付けてしまった。
「れれ? あそこにいるのは銭形のとっつぁん!?」
「え、嘘!?」
 不二子も慌てて視線を走らす。しかし二人の変装が完璧だったせいか、はたまた正月気分で敵の眼力が曇っていたのか、 二人に気付くことなく銭形は休憩室の前を通り過ぎていった。
「……まいったぜ、まさかこんな所にもとっつぁんがお出ましになるとはな」
「おおかた、大きな美術展の影にはルパンあり、とでも思ってるんじゃないかしら」
「その勘は間違ってはねぇけどよ。正月早々ご苦労なこった」
 ルパンは立ち上がると、袴の裾を払った。
「さぁて、そろそろ帰るか」
「あら、もう良いの?」
「あぁ。これ以上ここにいて、とっつぁんの喜ぶ顔見るわけにいかねぇしな。 必要なデータは全部揃ってるし、使いそうな道具の手配は次元と五右ェ門に任せてる。 後は、アジトに帰って作戦を練るだけだ」
「もうすぐここにある美術品たちが、アタシの物になるのね」
 うっとりとした表情で、不二子が呟く。
「ふふふ。楽しみだわ……」



 その日の夕方、当の美術館にルパンからの予告状が届き、大変な騒ぎになったと言う──



盗怪道祭景 主催者殿

貴館展示中の全作品を頂戴します

近日参上       ルパン三世
END
【予告状】

2003年元旦開幕の『和』がテーマの祭、『盗怪道祭景』に出品させていただいたモノ。 本当はこの「ネタ」を使ってイラストを描くつもりだったんですけど、 〆切に間に合わなかったので小説に鞍替えしました。 ……これが果たして『和』と言えるかどうか甚だギモンではありますが…(^^;)
とにかくラストの予告状(オチの部分/笑)が書きたかったので、 書いていて楽しかったですvv(話が練れていないのはご愛敬?)

(2003/1/5)

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