夜 桜
「紫殿、今宵夜桜を見に参りませんか?」

4月も半ばを過ぎるころ、急にあの人がこう言った。
断る理由なんてどこにもないし、何より誘ってもらえたのが嬉しくて

「はいっ!」

思わず満面の笑顔で答えた。


私の家の裏山には野生の山桜がたくさんはえている所がある。
父と母が生きていたころ、祖父も一緒に四人で良く花見に来た。
そんな話をしたことを覚えていてくれたのだろうか。
あの人が連れてきてくれたのは、その場所だった。

「わぁっ…綺麗ね、五右ェ門様!」

頭上には満開を向かえた桜と暗い夜空に浮かぶ月。
月明かりにほんのりと浮かび上がる白い桜が、本当に美しかった。
風が吹くとちらちらと舞い落ちる花びらを受け止めようと両手を広げて上を向いていた。

「紫殿。」

静かな声で、でもはっきりと。名前を呼ばれて私は振り向いた。
思ったよりもずっと近くに貴方が居て、少し鼓動が早くなる。
自分を誤魔化すため、貴方に悟られないために返事の代わりに首をかしげた。
一つ分だけ呼吸を置いたあとで貴方は言った。

「拙者について…いや、これからの一生を拙者の隣で生きてくださらぬか。貴方をずっと守って行きたい。」

頬を薄く朱に染め、漆黒の瞳でこちらを見つめ、貴方はこう言った。言ってくれた。

「紫殿、拙者の妻になってくだされ。」

月明かりが、桜が、降ってくる。音もなく。
貴方は私だけを見ている。まっすぐに。
…これは 夢かしら…
ぽろりと熱い滴が自分の頬を伝うのを感じた。

「い、いや、無論無理強いなどいたしませぬ!!紫殿に他に思い人が居るのなら拙者は身をひきます故!!」

耳まで真っ赤になって、早口でまくし立てる貴方を見て、おもわず笑みがこぼれた。
きっと自分は、泣き笑いのひどくおかしな顔をして居るんだろう。
涙を手の甲でぬぐって、ゆっくりとかぶりをふった。

「私の思い人は、五右ェ門様だけです。」

月明かりが、桜が、降ってくる。音もなく。
私は貴方だけを見つめる。貴方がそうしてくれたように、まっすぐ。

「貴方の妻にしてください。私も五右ェ門様を守りたいから。」

頬に一筋涙の跡を残して、少しだけ微笑んだ。愛しい貴方に向かって。
【夜桜】  ※ 『風魔祭2003』投稿作品  テーマ(1):自由

月影 様のコメント>>
すみません。畑違いなことをしてしまいました…。でも書いてて楽しかったです。 最初ゴエ様視点の予定だったのですが、難しすぎて今のカタチに落ち着きました。 妄想大暴走!!大爆発!!(どかーん)
幻想的な夜景の中でのプロポーズ──あぁ、素敵vv(〃∇〃)
既に親密になっていたであろう二人ですけど、 想いを直接口に出したのは、きっとこの時が初めてだったのでしょうね。
紫ちゃんの涙を見て慌てる五右ェ門の姿が、彼らしくてとても微笑ましいです(笑)

『風魔祭2003』へのご応募、どうもありがとうございました!!

(2003/12/26)

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