「カウントダウン」
プロローグ
「本当? 本当にあれをアタシにくれるの?」
 ベッドに寝そべる女が嬉しげに声を上げた。
 残念ながら服はしっかりと着込んでいるが、組んだ手に頤(おとがい)を乗せた姿が色っぽい。
「も〜ち! キミの喜ぶ顔が見られるのなら、たとえ火のなか水のなかぁ〜! なんちって」
 ふざけ気味に答えた男は、両手の指を器用にクネクネ動かしながら彼女に覆いかぶさろうとする。脳内では既にオトナの薔薇色タイムに突入しているのか、だらしなくにやけた笑みが顔に貼り付いている。
「だ・か・ら! 前払いのご褒美チョーダイ♪」
「いやん」
 ガン、と鈍い音がして、男が見事に壁際まで吹っ飛んだ。女が密かに仕掛けていたトラップに引っ掛かったのだ。
「ッテェ! ……意外にガードが固いんだから、もぅ」
 男は涙目で腰をさする。打ち付けたらしい。
 女はツンとすました顔でそれを見下ろした。
「意外は余計よ! どこかの馬鹿と同じこと言わないで。黄金の像をやるから自分の物になれ、だなんて。安く見ないでもらいたいものだわ」
「それ、安いかぁ? 例の時価数億っつー女神像のことだろ? 巷で話題になってたぜ。シカゴ随一のエロオヤジが色気で籠絡されて騙し取られたとかナンとか」
「失礼しちゃうわね。くれると言ったからもらってあげただけよ」
「それでハイサヨナラか。恨まれても知らねぇぞ」
「大丈夫。夢は充分見させてあげたから」
「夢って……まさか、あ〜んなことやこ〜んなことを!?」
 ミニスカートに包まれた部分を気合で透視でもするかのように凝視しつつ、男が肩をわななかせた。
「そんな訳ないでしょ! 先物取引には精査が必要よ。貴方も、アタシの信用を得たければとことん尽くすことね」
「……もう充分に尽くしてるつもりなんだけどナ……」
 男のぼやきには耳を貸さず、女は流れるような動きで床に下りた。ヒールの音が静かな室内に響く。
「アタシは今忙しいの。終わってから連絡ちょうだい」
「あ、待ちなって」
 慌てて男が小箱を投げて寄越す。蓋を開けてみると、大ぶりの石をはめた指輪が一つ納まっていた。
「これは?」
「前に言ったろ。実験途中で偶然できた人工石だよ。すっげぇ綺麗だったから、是非ともプレゼントしたいと思ってさ」
 男は得意げに『石』の解説を始める。他のどの宝石とも違う独特な反射率を持っており、シチュエーションによって様々な表情を見せるのだとか。
「製法が確定してないのならガラクタと同じね」
 適当に聞き流しつつ女が断ずると、男はガクリと肩を落とした。
「そりゃね〜ぜ。一点モノなんだから、大々的に噂を流せばそれなりに価値は上──」
「はいはい。アタシへの誠意の証しとして、ありがた〜く受け取ってあげるわ」
 指輪を豊満な胸の谷間に滑り込ませると、女は男の頬に軽く口付けをした。そして耳元で甘く囁く。
「続きは、またこ・ん・ど」
「ふ──」
「ダ〜メ」
 性懲りもなく抱き付こうとする男の腕をひらりとかわし、女は艶やかな笑みを浮かべた。
「じゃあ、頑張ってね。楽しみにしてるわ」
 そう言い残し、足音が扉の向こうに消えていく。この部屋から遠ざかっていく。
 男は未練がましく耳を澄ましていたが、ややあって、大きく息を吐いた。
「ちぇー。やっぱりオアズケかぁ〜……」
 しかし、その瞳に諦めの色はない。
 ターゲットは既に決まっている。あとは行動あるのみだ。
 男はピンと背筋を伸ばすと、大きく息を吸い込んだ。

「よ〜し。いっちょ、やったるか!」
この手の(一方的な)「駆け引き」を、いったい何度繰り返したのやら…(苦笑)

(プロローグとエピローグは短めです^^;)

(2015/8/28)

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