「カウントダウン」
カウントダウン・オリジン
『カウントダウン』の元になった短編です。
仕上がったのは良いものの、あまりに説明不足なため細かい設定をあれこれ考えている内に、 「あれ? コレって長編にできるんじゃない?」と思っちゃったワケです。

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 明滅するパネル。
 恐ろしいほどの勢いで減少する数字。
 それがゼロになったときに何が起こるのか。
 ──考えるまでもない。

「やべぇ! 時間がねぇ!!」
 振り向いたルパンの顔は強い焦燥に彩られていた。
 説明を待たずとも、五右ェ門にはその理由がわかる。
「次元が──」
「任せろ! お主は不二子を!」
 遮るように叫ぶと、五右ェ門は踵を返して駆け出していた。



 拉致監禁されている峰不二子を奪還する、それが今回のミッションだった。
 後から呼び出された五右ェ門は事の詳細を知らない。 いかに敵の本拠地が厄介かという説明と、 一刻も早く彼女を助け出さないと命の危険があるということを、焦った口調で聞かされただけだ。 説明する暇すら惜しんでいたのだろう。
 珍しく平常心を失っているルパンや次元を目にしたからか、 五右ェ門もあえて事細かに聞き出そうとはしなかった。
 不二子に対しては信用ならん女だとの認識はあるものの、だからと言って死ねば良いと思ったことはない。
 まずは、己のやるべきことを、やる。
 無事に彼女を救出した後で改めて事情を聞き、 それに納得いかなければ──できるかどうかは別として──説教でもかましてやれば良い。そう思っていた。

 敵の根城はまるで難攻不落の要塞のごとくそびえ立ち、侵入にはかなり手こずった。
 しかし、入ってしまえばこちらのもの。 二手に分かれて襲い来る傭兵どもを難なく撃退し、順調に歩を進め……
 しかしそこで突如トラップが発動、結果的に次元が身動きできない状態に陥った。
「本人の申告によると、打ち付けた背中がちぃ〜っと痛ェだけで、怪我はねぇってよ」とは、 合流後のルパンの弁である。
 その場にいなかった五右ェ門には彼の説明から想像するしかないが、 高い粘着性のあるトリモチ状の物体に絡め取られ、天井に貼り付けられてしまったらしい。 短時間での脱出は無理と判断し、「そこで待ってろ!」と言い残してルパンは先を急いだのだと言う。
 無論、五右ェ門がその行為に異を唱えることはなかった。

 ──彼らが極限にまで急いでいるのには訳がある。
 この要塞には巨大な自爆装置が仕掛けられており、しかもそれが既に作動中なのだ。 不二子を巻き込んでの壮大な無理心中である。
 手を尽くして設計図を入手したルパンは、開口一番「こりゃダメだ」と言った。 誤爆を避けての破壊が不可能な上に、セキュリティーを破って自爆コードを解除するには時間がかかり過ぎる。 必然的に、できるだけ早く乗り込んで、できるだけ早く不二子を助け出す以外に方法がなかった。

 だから、彼らはやって来たのだ。
 刻一刻とカウントダウンの進む、この要塞に。
 不二子が力なく横たわる、頑丈なこの牢の前に。

 途中までは順調だと思ってた。
 時間が残り少ないとは言え、全力で進めばどうにかなるとの目算もあった。
 ……予想外に少なかった数字を見るまでは。



(くそっ……!)
 数々の障害物を物ともせず、だだっ広い通路を五右ェ門が飛ぶように駆ける。
(残り、78秒。間に合うか!?)
 次元が捕らわれている場所は大まかにしか聞いていない。
 そもそもこの道筋で合っているのか。似たような造りの部屋が多過ぎる。迷ったら終わりだ。
(ルパンは大丈夫なのか? 不二子は?)
 自爆装置に気を取られてしっかりと確認できなかったが、不二子が入れられていた牢もまた、 とても頑丈そうな代物だった。
 ──なぜ、あのとき斬鉄剣を一振りしなかったのか。 そうすれば、少なくともあの二人は容易に逃げ出すことができただろうに。
(……違う)
 五右ェ門は逡巡を振り切るように更に走る速度を上げた。全身への負担が増す。 着地の際の衝撃を逃がせない。足首が悲鳴を上げる。長時間は耐えられまい。
(奴なら……ルパンなら、必ず不二子を連れて脱出できる)
 ──だから、自分は次元を優先した。その判断は間違ってなかったと思いたい。
(残り、25秒)
 時計の類いは身に着けていないが、五右ェ門の鋭敏な感覚が正確な時間を告げている。 間に合うか、間に合わないか。いや、間に合わすしかない。

「五右ェ門!?」
 いくつめかの広間を通り過ぎようとしたとき、聞き慣れた声が上から降ってきた。 事前に気配を察知できなかったとは、思っていた以上に冷静さを失っていたらしい。 危うく行き過ぎるところだった。
「なんだ、オメェ。何をそんなに慌てて──うぉぉ!?」
 次元の姿を視認したときには既に五右ェ門は高く跳躍していた。愛刀を振り抜きざまに一閃する。 極限にまで研ぎ澄まされた鋭利な刃先がトリモチ状の目標物を両断──できない。浅く溝を掘っただけだ。
 既に乾燥して粘着性は失われているものの、高い弾力性が衝撃を吸収してしまったのだ。 これは、ルパンが後回しにしようと判断したのも納得できる。
 しかし五右ェ門の判断もまた早かった。着地するや否やの再度の跳躍で、天井を丸く斬り抜いたのだ。
「どわぁぁぁぁぁぁ!!」
 当然、天井と共に次元が降ってくる。 トリモチに絡め取られているせいで受け身もできないが、そのトリモチがクッションとなって彼の身体を守る。
「お、重てぇ……」
 怪我一つなかったはずの次元がややぐったりしてしまったが、五右ェ門はこの際気にしないことにした。
 のしかかっていた天井を斬り飛ばし、側面の壁にも大穴を開け、 トリモチを外す暇がないのでそれごと次元を担ぎ上げる。急ぐ理由を察したのか、次元も口を挟まない。
(残り……5秒!)
 脱出用ワイヤーを手に、五右ェ門は後先考えず外に向かって飛び出した。 背後に轟く爆音を耳にしながら──



「……で、結局何が起こったんだ?」
 ズキズキと痛む両足首を水に浸した手拭いで冷しつつ、五右ェ門が尋ねる。
「それはアタシが聞きたいわよ!」
 怒りに任せてアジト内を歩き回っていた不二子が、派手に音を立ててソファに座り込んだ。 風呂に入って着替えも終えているが、ところどころに見え隠れしている擦り傷が痛々しい。
「せっかくいい取り引きができると思って会ったってのに、商談中に急に気が遠くなって、 気付いたらあんな殺風景な場所に閉じ込められてたのよ。 我々と一緒に死んでくれだなんて、何様のつもりよ! アタシを誰だと思ってるのよ!!」
「まぁまぁまぁ」
「ルパンもルパンよ。なんでもっと早く来てくれなかったの? そしたら、直接アイツに復讐できたのに!」
「仕方ねぇだろ。知った時点で残り8時間だったし、実際には7時間切ってたわけだし……」
 苦笑するルパンは焼け焦げの跡が目立つジャケットを羽織ったままだ。 やはり牢破りに時間がかかり、脱出がギリギリになってしまったらしい。
「あぁん、もう! 何なのよアイツ〜!」
 地団太を踏みそうな勢いで不二子が呻く。 ただの商取引のつもりで会った相手に殺されかけたのだから、運が悪かったとしか言いようがない。
「大方、どっかで敵の大将に一目惚れでもされたんだろ。 なんで自分の組織を丸ごと吹っ飛ばすつもりになったのかは知らねぇが、 追い詰められた人間が、死に際に華を求めたのかもな」
「冗談じゃないわよ!」
「俺にあたるな」
 次元は面倒臭げに応じると、マグナムの手入れを再開した。 トリモチの残滓が銃身に入り込んでしまっているのだ。 彼も爆風の影響でそれなりに負傷しているはずだが、それを表に出す気はないらしい。
 暢気な調子でルパンが言う。
「ま、いいじゃねぇか。何とかなったんだからよ」
 なぜ敵組織は自爆したのか。
 不二子を巻き込んだ真の目的は何か。
 目算よりもカウントダウンが早かったのはなぜか。
 そもそも、なぜそんな極秘情報がルパンの耳に届いたのか。
 謎は多いが、恐らく一朝一夕に解決できるような事象でもないのだろう。
 だから、そう。──今はこれでいい。

 アジト内に不二子の声がこだました。
「良くなぁぁぁい!!」


<完>
短編のつもりで書いたので、かなり展開が強引です。
長編の方でも強引なのに、それに輪をかけて強引です(笑)
そしてバトルシーンがないゆえに、更に不憫なことになっている次元……!
しかも、長編以上に皆追い詰められているし、五右ェ門が目立ってるし。

どこがどう変わったのか笑いながら読んで頂けると幸いです。

(2017/8/6)

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