「カウントダウン」
エピローグ
「ホント、素敵ね……」
 うっとりとした表情で女がつぶやいた。
 手中にはピンクダイヤのブローチがある。煌びやかで凝った意匠を見るに、年代物の逸品のようだ。
「だろ?」
 向かいのソファで踏ん反り返っている男が満面の笑みを浮かべた。
「それ手に入んの苦労したんだぜ?」
「『淑女の微笑』とはよく言ったものね。この輝き、まさに栄華の象徴。アタシが持つに相応しいわ」
「よく似合ってるぜ」
「ふふ。これで世界はアタシの物よ」
「お、おぅ」
「プレゼントは確かに受け取ったわ。ありがと。じゃあね」
「えぇっ!?」
 スッと立ち上がって部屋から出て行こうとした女の前に、男が慌てて立ち塞がった。
「待て待て待て待ちなって。お礼は!?」
「今言ったじゃないの。ありがとうって」
「じゃなくて! ほら、『続き』は今度くれるって! 早くしようぜ。ムフフ♪」
 男の指差す方向には寝室がある。あからさまな誘いだ。ムードも何もあったものではない。
「やぁね」
 女が眉根を寄せた。美人は得だ。どんな表情をしても絵になる。
 男がうっかり見とれていると、女はソファに座り直した。スラリとした脚を組み、立ったままの男を挑発的に見上げる。
「貴方、アタシに何をしたか覚えてないの?」
「……オレ、何かしたっけ?」
 心当たりのない男が目を白黒させていると、女はハンドバッグから指輪を取り出し、サイドテーブルの中央に置いた。
「あ、それは」
 男が以前彼女に贈った物だ。不思議な色合いの石がはめてある。
「何か気に入らなかったか? そりゃ人工石ではあるけどさー、価値がねぇわけじゃねぇし、綺麗だからイイじゃん」
「あのねぇ」
 女はこれ見よがしに溜息を吐いた。
「問題行動の自覚がないようだからハッキリ言ってあげる。貴方がくれたこれ、発信機付きじゃないの! すぐに気付いたから良かったけど、アタシの許可も取らずにそんなもの黙って寄越すなんて、いったいどういう了見よ!?」
「えっと……」
 勢いに飲まれた男はもじもじと両手の人差し指の先を擦り合わせた。
「いや、だって……普段連絡してもなかなか繋がんねぇし、連絡取れても会ってくんねぇし、せめて居場所くらいは知りたいな〜なんちって……」
「アタシは忙しいって言ってるでしょ」
「そ、それに、ちゃんと役に立ったじゃねぇか。その発信機を使ってオレに連絡くれたろ!?」
 先日とある事件に巻き込まれた際に、女はあえて指輪の発信機を作動させたのだ。男に自らの危機を知らせるために。しかし──
「その連絡がなくたって、貴方はアタシの元に到達してたじゃないの。言い訳にならないわ」
「そりゃそうだけど……。あ、でも、だいたいの居場所を推測する手掛かりにはなったぜ?」
「どう言い繕ったって、プライバシーの侵害には違いないわ」
「けど──」
「分かってる? アタシはとっても怒っているのよ。無断で貴方がやったことに対してね」
「……うっ」
 男は怯んだ。
 発信機を秘密裏に使用した経験は女にもある。男とてそのことは承知している。
 だから非難される筋合いなど本来ならばないのだが、今回はなまじ『女性が一番喜ぶプレゼント(アクセサリー)』に偽装してしまったと言う負い目があるだけに、強気に出るのは気が引けてしまったのだ。
 この手の勝負は一度でも引いた方が負けである。
「だから、これでおあいこね」
 勝ち誇ったように宣言すると、女は男の求めに応じず部屋を出て行こうとした。
「そんなァ〜……。謝るから! 謝るからさ、機嫌直して! ねぇ!」
 背後から情けない声が聞こえたが、それを無視して扉に手を掛けたところで、ふと思い直したかのように女は足を止めた。踵を返してつかつかと戻って来ると、テーブル上の指輪に手を伸ばす。発信機付きの指輪に。
 そして、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「……でも、これはもらっておいてあげる。感謝なさい」




 かくして、一連の事件は終息の時を迎えた。
 彼女はブローチの伝説通りに栄華を極められたのか。──それはまた、別の話である。



<完>
……と言うわけで、シリーズ終了です。
長編と呼べるほど大して長くもなかったですが、やはり短編を書くのとは全然違いますね。

書いていて思ったのが、私には長編モノは向かない!と言うこと。
1話書くごとに設定が変化して冒頭から修正するものだから、一向に進まないのです。仕上がるまでに何度全体を書き直したことか!(だから、『書きながら順次発表』なんて形は絶対に無理…^^;)

でも頭を使う訓練にはなるから、たまには長めの話も書くべきなんだろうな〜。
ここまで長い話はもう書かないと思いますけどね。

お付き合いくださった方、どうもありがとうございました!!(≧▽≦)


<反省点>
・ルパンのサシでのバトルがない(別になくてもいいけど)
・五右ェ門と比べて次元の活躍が少ない
・銭さんが蚊帳の外
・ルパンが察しが良過ぎる気がする
・敵の動機がありきたり
・全体的に説明文っぽい

(2016/8/7)

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