「カウントダウン」 第四章 激突編
(五)ゴール
 階段を一気に駆け下り、そろそろ息が上がって来た頃のことだった。
 長い廊下を走り抜けようとしたルパンは、ハッと目を見開くと咄嗟に後ろに跳び退った。
 パシュッと音がして、直前に立っていた場所の床に焦げ跡が付く。
「うっわ、まためんどくせぇモン置きやがったな」
 レーザー銃だ。対人センサーと連動して自動的に撃つ仕組みらしい。
「えっと、センサーはあそことあそこと……。ひゃぁ!」
 慌てて曲がり角にまで後退する。ジャケットに穴が開いたが身体は無事だった。
「くっそぉ。不二子ちゃんはもう目と鼻の先なんだけどなァ〜」
 ぼやきつつ、ルパンはワルサーを構えた。左手にも銃を持つ。道中で拾った物だ。
「3、2、1、そ〜れ!」
 気合と共に角から飛び出すと、片っ端からセンサーやレーザー銃を撃ち抜いて行く。
 強行突破だ。小細工はまるで考えていない。既に侵入に気付かれているため、こっそり抜ける必要がないのだ。
「アチチチチ! イッテェ! このこのこの〜!!」
 半ばヤケクソで次々に発砲しながら、ルパンは廊下を進んで行った。じわじわと一番奥の扉に近付いて行く。この部屋の中に目指す不二子がいるはずだ。
 カチッと音がして無情にもワルサーが黙り込む。弾切れだ。弾倉を入れ替える余裕がないため、ワルサーを口にくわえて背負っていたサブマシンガンを装備する。これもまた、兵の内の誰かが落として行った物だ。
 その間に左の銃も動かなくなったが、それを投げ捨て間髪入れずにサブマシンガンを発射すると、残りの仕掛けは綺麗に破壊された。
「ふぅ〜……」
 ルパンは思わず一息吐く。
 防御は二の次で積極的に攻撃したため、身体のあちこちに軽い火傷を負ってしまった。防御優先で時間をかけてもどのみち同じ結果になっただろうから、選択自体には悔いはない。しかし、痛いものは痛い。
「カパロスのヤロー。覚えてろよ〜」
 新しい弾倉を入れたワルサーで廊下にある最後の監視カメラを潰してから、ルパンはゆっくりと扉を開けた。



「ルパン!?」
 部屋の中央から声がする。数日前に会ったばかりだと言うのに、なぜだか妙に懐かしい。
「おぉぉぉぉ〜! ふ〜じこちゃぁ〜ん!!」
 飛び付こうとしたが、目の前にある鉄格子がそれを阻む。
「あぁ、ルパン。来てくれたのね……」
「もちろんさ。言ったろ。不二子ちゃんのためなら、たとえ火の中、水の中! ってな」
(ま、実際に火傷しちまったしな)
 自分のセリフに密かに突っ込みを入れつつ、ルパンは檻に近付いた。
「発信機を作動させたのはさっきよ? こんなに早く来たってことは、やっぱり気付いてたのね」
 不二子が指にはめた指輪を見せる。
 檻の前面にある錠の部分を確かめつつ、ルパンは頷いた。
「そりゃもう、オレはいつだってキミのことを考えているからサ」
「だったらもっと早く助けに来なさいよ」
「無茶言わないでチョーダイ。このオレの頭脳をフル回転させたんだから、これでも最短だったんだぜ? ……多分、きっと」
「はいはい。能書きはいいから、早くここから出して」
「ちょっと待ちなって」
 座り込んで小道具をガチャガチャ言わせながら、ルパンはちらりと不二子に目をやった。
 多少疲れているようだが、衣服に乱れもないし、特に問題なさそうに見える。少なくとも表面上は。
「なぁ、不二子……。お前、何もされなかっただろうな?」
 不二子は見る間に不機嫌になった。
「なによ、藪から棒に。されてたら分かるわよ。眠りは浅かったんだから」
「そ、そうか」
「だから早くちゃんとベッドで寝たいのよ。頭痛がするんだもの」
「じゃあ、オレが添い寝を──」
「却下」
 ルパンの下心満載の提案をすげなく断ってから、不二子はようやく表情を和らげた。
 何だかんだと言って、ルパンが駆け付けてくれるのを心待ちにしていたのだ。期待に反して、未だ檻の扉は固く閉ざされたままであるけども。
「ねぇ、まだ開かないの?」
 焦れて催促すると、扉部分をあれこれ調べていたルパンは首をひねった。
「ん〜……。すっげぇ複雑なロックが掛かってんのな……。ここと、ここと、この辺をどうにかすりゃ開けらんねぇことはねぇだろうけど、時間かかりそうだぜ。五右ェ門を待つ方が早いかもしんねぇ」
「意外と役に立たないのねぇ」
「あらヤダ、不二子ちゃんてば辛辣ぅ」
 ルパンはひょいと立ち上がると、背面にある大型機器の方へと近付いて行った。
 モニターが明滅しているため、先ほどから気になっていたのだ。
「ルパン、それは何なの? ここからじゃ見えないんだけど」
 不二子の質問に簡潔に答える。
「自爆装置さ」
「え?」
 ルパンは状況を説明した。カパロスの日記や計画書のこと、研究所の設計図のこと、襲って来た傭兵たちのこと。そして、ディスプレイに今表示されている数字のこと。
 不二子はしばし絶句したあと、右手で軽く額を押さえた。頭痛が酷くなったのかもしれない。
「……じゃあ、本気なの? アイツ、本気で全部吹っ飛ばすわけ?」
「多分な」
「何考えてるのよ! ふざけないでよね!」
「オレに当たられてもなァ」
 苦笑して、ルパンはディスプレイを覗き込む。
 爆破までの猶予は2時間と少し。予想していた残り時間との大幅なずれはない。
「ルパン、どうする気?」
「とりあえず、どうにかして停止させてみるよ。ワリィけど、不二子ちゃんはそのまま待っててネ」
 他人の建物が破壊されようと知ったこっちゃないのだが、まだ内部に人が残っている可能性があることを考えると、止められるものなら止めたいと思う。
 どうせ五右ェ門が合流するまでやることはないのだ。できる限りのことは試してみるべきだろう。
 ルパンはキーボードに手を伸ばし……そして硬直した。
「どうしたの?」
「……いや、これは……」
 いくつかの命令を書き込んで、そして確信する。
「マズイ。この時間はフェイクだ!」



「ルパン、どうなった!?」
 五右ェ門が駆け込んできたのはその時だった。
 着物に血の跡がある。あの大男との闘いは、それなりに厳しい物だったのかもしれない。
 しかしそれには目もくれず、ルパンは声を上げた。
「五右ェ門! やべぇぞ、残り時間が違ったみてぇだ!」
「どういうことだ? 日記の解釈が間違っていたのか?」
「いや……あの日記はダミーだな」
 うわの空で答えつつ、ルパンは十本の指を目まぐるしく動かして自爆装置のセキュリティーを突破した。かなり強引な手を使ったため警報がけたたましく鳴り始めたが、もちろん無視する。
 その間に、五右ェ門は斬鉄剣を閃かせて鉄格子を斬り飛ばしていた。
 よろめきながら不二子が檻の外に出て来る。
「あ、ありがと、五右ェ門」
「礼には及ばん」
 二人はすぐさまルパンの元へとやって来た。
「本当の時間は……?」
「待て、今探してる。……あ、あったぞ! 多分これだ。──げっ」
 表示された数字を見て、ルパンは思わず仰け反ってしまった。

 残り時間は、既に10分を切っていた。
時間ギリギリで追い詰められるのも、これまたよくある「お約束」♪(笑)

(2016/3/5)

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